中高一貫の件ですが、先日、安城市でも導入説明会がありました。
私も説明会に参加してきましたので、感想でもひとつ。
最初の印象ですが、思ったよりも空席が目立ちました。
愛知県のウェブをみれば資料も手に入りますし、これらをみればある程度説明内容も想像ができるので、あえて足を運ぶまではみなさんしなかったのかもしれません。
あと話をうかがった印象からすると,たぶん今回手を挙げている高校さんは,中高一貫にそんなに積極的じゃないと思います。
現場の先生方はとりたててやりたいと思ってるわけじゃなくて,どちらかというと上から手を挙げさせられているように感じました(だからどうだというわけではないのですが,こういうのはまぁ良くある話です)。
ところでこういった新しい試みでは,次に続く学校がスムーズに導入を考えられるように、絶対に失敗できないというプレッシャーがもれなく与えられます。最初のチャレンジャーが失敗してしまえば、次に続くひとたちの腰は引けてしまって,鳴り物入りで始めた施策にもかかわらず,以降手が上がりづらくなること請け合いだからです(そうです,このプロジェクトを推進しようと思っているエライひとたちにとってものすごく都合が悪いのです)。
したがって、愛知県の戦略的にも,間違っても「ひとが集まらずに残念な結果」にならないよう、ここに手を挙げる高校は当たり前に黙っていても人が集まる学校です。
すなわち、愛知県の名門校がずらりと名を連ねるのです(なので各校が本当に手を挙げたくて挙げたかどうかはものすごく微妙です。新進気鋭の学校とスタッフたちなら嬉々として受け止めるでしょうけれど,そうでなければすでにブランドを確立している名門校にとってわざわざ手を出す意義は薄く,やらされ感のある仕事かもしれません)。
個人的には、このような特色ある学校を目指す仕組みは、学校を選択する際に大きな目玉になるでしょうから、偏差値によらずその特色を目指して学校を選択できるように,進学校だけでなくそうでない学校もどんどん手を挙げて欲しいと思っています。
その方が棲み分けができて選択もしやすいし、ひとを集めるためにユニークで先進的な教育を施すような工夫をする学校が見て取りやすいと思うからです。
私は公立の学校とても、熱心に、子どもたちのための教育に取り組んでくれる学校や先生方の下にこそ生徒が集まるべきだと考えています。偏差値だけで進学する学校を決めるなんて本当に馬鹿げていると思っています。
誤解をおそれずにいうのなら,この地方でいちばんと言われている難関大学でさえ,学年の一割程度の学生たちは「自分で進路を決めることができず,偏差値というわかりやすい指標を元に大学を決めた」ことが原因で,志望校合格という目的を果たした瞬間にモチベーションはどんどんと下がっていき,やがて1年生,2年生と学年を進めるうちにようやく「自己不一致」に気が付き始め,アイデンティティを保つことが徐々に難しくなっていきます。
そうして,大学生活に意義を見出すことができなくなって,退学を選んだり,不登校になってしまったり,目的も目標も見失って歩みを止めることになってしまうのです。
自分の偏差値で行けそうないちばんレベルの高い大学だったので。
お父さんがここ以外は認めてくれなかったので。
お母さんがここに行けと強く奨めてくれたので。
学校の先生が,おまえなら行けるんじゃない?と言ってくれたので。
塾の先生ができる限り偏差値の高いところへ行った方が後々いいよと言ったので。
これらの言葉は本当に学生さんの口からよく耳にします。
主体性を失った残念な言葉たちです。
しかし一方で目的を持たずに大学進学する者や特に深く考えずに大学を選択する者は少なくありません。そしてそういうひとたちは少なからず学生時代に迷宮に陥ります。
とりわけ医学科はヤバイです。
医学科は最難関であるがゆえに,なんとなくみんなが目指しがちですが,医学系こそその先を見据えていなければ,6年間という長い学生生活を有意義に送ることがとっても難しいのです。
そりゃそうです。
医学科へ進学した学生の99%は医師免許を取得し,そのほとんどが臨床医を目指すのです。
大学1年生になったそのときから,その未来を思い描けていなければ,6年間でいったいなにを学ぶというのでしょうか。医学科に行くなら臨床医になるという強い意志を持てという意味ではなくて,大学で何を学ぶのか,自分は何が学びたいのか,をしっかりと考えて欲しいということです。
もちろん医学科に進学し,医師免許をとったからといってみんなが臨床医になるとは限りません。
最初っから基礎研究者を目指すひともいますし,あるいは医師免許を持って官僚を目指すひとだっているでしょう。何年か臨床で経験を積み,医学博士号を取得した後に,法曹を目指したり,ITベンチャーを起こしたりするひともいました。複数の異なる分野をまたぐ医師は今の時代とても重宝されるのです。
都度,将来の夢がかわることなんてざらにあるでしょう。
しかし,自分の興味や意志を無視して,偏差値だけで進学先,就職先を決めるのだけは本当にやめたほうがいい。
まして,お父さんやお母さん,学校の先生や塾の先生に言われたからとか,自分の成績でいけるなるべく上位校みたいな決め方で良いことなんてないです。
そういった意味で,この中高一貫教育が求めている人材。あるいは次の30年で求められている人材。社会が本当に必要としているもの。こういったものと自分の意志や興味がマッチするとすれば,これはもう本当に意義のあることだろうと思います。
本当に楽しい学びがそこにはあるでしょうし,いずれ社会の役に立つ,社会に貢献するために必要な知識と体験,経験をそこでは得ることができるでしょう。そういうひとにこそ,この道を開いて欲しいものです。
時代は確実に動いています。
もはや受験のためのうわっつらの技術やスキルは求められていません。
必要なのは確かな好奇心に裏打ちされた経験であり,体験です。
学問の本質こそがおそらくそこには求められるでしょう。
文部科学省がいう,真の学力とは何か。
我々は今こそ,もう一度,ゼロベースで学びについて考える必要があるのかなぁと思っています。