コーチング 学習塾ミライデザインラボ室長の手島です。
みなさんこんにちは。
先日,無料相談にお越しいただいたお母さんに「コーチングを覚えたら,上手な子育てができますか?」という素朴な疑問をいただきました。
親子のコーチングについて,10年ぐらい前にレポートをまとめたことがありますので,今日はそのあたりをお話したいと思います。
実は親と子のコーチングについてはすでにたくさんの関連書籍があります。
しかし,これらの書籍で話されているのは純粋な「コーチング」ではなく,「コーチング」のエッセンスを親と子の関係にあてはめて上手に情操教育をするための話なのですね。
なぜそうなっているかというと,第1に子育ては「コーチング」だけでフォローするものではなく,ティーチングやメンタリング,あるいはそれ以外の何かが必要で,人材育成の枠組みだけを適用させるようなものではないことです。
ですので,あまたの親と子のコーチング実践書では「子育て」のうちの一部を切り取って,コーチングが適している場面での対応の仕方を取り上げています。
第2に「コーチング」を選択すべき場面であっても,コーチングというのはそもそも「目標達成」を効率よく,ハイクオリティになるよう支援し,かつ到達までのモチベーションや意識を高くもつためのスキームであって,目標達成に全力を注ぐだけではない「子育て」に直接適用させるような仕組みではないからです。
そのため,コーチングという手法のうち,親子関係でも適切に作用する場面やちょっとしたお子さんとのやり取りや,会話の仕方にそのエッセンスを組み込んで解説されていることが多いようです。
まぁ,簡単に言えば,コーチングが親子の関係では機能しづらい手法だからと言えるでしょう。
さて,それはなぜでしょうか。
コーチング は多重な関係を嫌う
コーチングやカウンセリングのような内面に働きかける技術(というと若干語弊がありますがここではあえて技術と書きます)は元より多重関係を嫌います。
多重な関係というのは,コーチとクライエントであり,かつ親と子,上司と部下,恋人同士,先生と生徒,のように複数の関係を重ねている状態を指しますが,このように複数の関係性を一度に併せ持つと,クライエントの成功を支えるための土台である「コーチングマインド」が異なる関係性の土台(マインドセット)で上書きされてしまう可能性が高いため,一般に多重な関係を築かない方がよいとされているのです。
また,コーチに必要なクライエントとの課題分離を一般にご両親は苦手としていることも大きな要因です。
わかりやすく言うと
クライエントの純粋な成長をコーチは支援しますが,親の愛情は支援を超えて援助になってしまう可能性が高いということです。
支援と援助の違い
さて,支援と援助の違いってなんでしょうか。
とりあえずインターネット辞典をひいてみました。
し‐えん〔‐ヱン〕【支援】
支援とは – コトバンク (kotobank.jp) デジタル大辞泉から引用
[名](スル)力を貸して助けること。「独立運動を支援する」
えん‐じょ〔ヱン‐〕【援助】
援助とは – コトバンク (kotobank.jp) デジタル大辞泉か引用
[名](スル)困っている人に力を貸すこと。「資金を援助する」「国際援助」
ほとんど同じですね…。
大学の学生部(学生支援組織=厚生補導を行う組織)では,これらふたつは明確にわけています。コーチングの枠組みも,たとえば介助の分野などでもおそらく使い分けているでしょう。
支援は,支援者が力を貸すのですが,主体は本人(=被支援者)にあります。
被支援者が達成したい事柄のうち,できないことに力を貸しますが,あくまでもその事柄を達成するのは被支援者にほかなりません。
一方で援助は,助ける者が主体となります。
援助者は,被援助者の達成したい事柄をすべて援助することができます。
つまり,がんばれば本人ができることを代わってやってしまうことは支援ではないのです。
参考:社会人の教科書
本人ががんばって達成すべき事柄を代行してしまうことは,コーチングにおいては「勇気くじき」とされ,裏にある「本人では達成できないから代行する」ことを暗示してしまうという意味で,可能な限り支援にとどめることが肝要であるとされています。
逆に言えば,援助が必要な事柄において,支援にとどめることは達成を妨げることにもなります。
ティーチングが必要なところにコーチングを用いても,何も出てこないのと同じなのです。
親の子への愛情は,支援の枠を超えて,援助になってしまいやすい点において,コーチングが親子関係において機能しづらいということになります。
では コーチング を親子の関係で用いることは不可能なのか。
というと,そうでもありません。
先に述べたように,たくさんの書籍にもまとめられているとおり,もう少し専門性を落としたコーチングのエッセンスだけを用いてコーチングを子どもに対して行うことはできます。
もちろん親はコーチの自覚をもって接する必要はありますし,コーチングを機能させるためにはこのマインドセットをつくることが必要条件となります。
コーチングマインドは,コーチングにおいて最も重要な要素のひとつです。
技術は習練で体得することができますが,コーチングマインドは言わばその技術の礎,魂の部分になりますので,ここが欠けていればいかに素晴らしい技術でも,必要十分な効果は得られません。
僕は親と子のコーチングで必要なコーチングマインドを以下のように考えます。
ひとつひとつ声に出して読み上げてみてください。
違和感なく読み上げられますか?
もしも違和感を感じるのであれば,自分自身の価値観をゆっくりと観察しながら,どこに違和感を感じるのか?自分のどんな価値観に触れるのか?を内観してみてください。
・子どもの可能性を100%信頼し,応援します。(子どもだってひとりできっとできます。) ・子どもの成長を静かに見守ります。(成長する方向を支配したりコントロールしたりしません。) ・子どもをひとりの大人として尊重します。(まだ子どもなんだからと,親の言うことを聞かせたりしません。) ・子どもの課題は子ども自身がクリアすべきものであることを理解します。(親は手を出しません。) ・子どもにはあらゆる失敗をする権利があります。(失敗しないように,先回りしません。) ・子どもに指示したくなってしまうときは,その指示が自分のどこから生まれたものかを考えます。(子どもへの指示や命令は子どものためでなく,親である自分自身のためです。) |
いかがでしょうか。
これらを違和感なく読み込めるようなマインドセットを持つ親はそう簡単には見つからないでしょう。
子育てにおいてコーチという立場をとることは非常に難しいことがおわかりいただけたでしょうか。
かくいう僕もうちの子どもにコーチングを試みてはいますが,なかなか会心のコーチングセッション!はできません。子どもを育てるというのは本当に難しいですね。
もしかしたら育てるという言葉自体がハードルをあげているかもしれません。
子どもたちはそれぞれが独立した人間であり,親と子は決して上下関係ではありませんから,子どもたちは自ら育ち,親はそれを支援することができるのみです。援助の心では,子どもたちの自立を促すことにつながりにくいのです。
さて,それでは反対にコーチングが成立しなくなるネガティブなマインドはどうでしょうか。
※注意)コーチングは絶対無二の価値観ではないので,読み方には注意が必要です。コーチングを成立させるには?という視点でネガティブと述べているに過ぎず,子育てにとってどのように考えるのか?は,子育ての方針やご両親の考え方に大きく依存しますので,誤解のないようにしてください。
・彼らはまだ子どもなので親のサポートがいつも必要です。 ・親には子を手取り足取り指導し,導く必要があります。 ・明らかに失敗しそうなときは,注意喚起し,有効な方法を指示しなくてはなりません。 ・経験上,うまくいかないと考えられる方法を子どもが選んでいる場合,効率よく学習するためにも,より合理的で効率的な方法を教えてあげる必要があります。 ・時に道を外してしまったときは,厳しく叱ることも必要であり,子どもの価値観に基づくのではなく,正しい礼儀作法や習慣をつけてあげなくてはなりません。 ・子どもがひとりでできずに困っているときや間違ったことをしようとしているときは,代わって自分が対応することが必要です。 ・子どもの考えていることは,親である私が一番よくわかっています。 |
これらのマインドセットとコーチングマインドの違いをじっくり感じてみてください。
ネガティブなマインドセットを読んでいる間,「これのどこがおかしいんだ?」と感じたことはありませんでしたか?「なにか問題あるか?」と反発心を感じた個所はありませんでしたか?
繰り返しますが,これらは「間違った子育て」ではないので,そこだけは注意してください。
あくまでもコーチングをするなら,これらの心の在り方はマイナスに働きやすいということです。
なので,コーチングにおいては,ネガティブなマインドセットだとしても,子育てやしつけ,あるいはマナーや道徳を教えたり,学んだりする際には必要な心の在り方も含まれているかもしれません。
コーチング を機能させるには。
コーチングをきちんと機能させるには,これらのマインドセットをコーチングマインドに置き換える必要があります。すなわち,コーチはクライエントの可能性を信じ,必ず自ら達成することを信じ,ただ隣に身を置いて支え続けるのみです。勇気を与える伴走者としてクライエントを応援することに徹するのです。
これらを踏まえ,冒頭の問いに答えるとするならば,コーチングのスキルのいくつか,コーチングのマインドを学ぶことは,親子関係を良好なものにし,子どもたちのジリツを促す有用なスキルであると断言しましょう!
難易度は相当に高い印象ですが,それはそれ。
実行できるかできないか,ではありません。
まずは,知っているか知らないかです。
そして,実行しようと努力をするか,しないかなのです。
実行不可能な机上の空論だとあきらめてしまっては,結果手が届くことはないでしょう。
しかしあきらめなければ,今は手が届かないかもしれませんが,いつか届くかもしれませんし,手を伸ばし続けるほかないのです。
なので,知ると知らないとでは結果には雲泥の差が!
……と思います。
では,次回コーチングのスキルを親子関係に落とし込んでみましょう。