ラボが開校してから早や一週間,何件かお問い合わせをいただいており,実際にご両親とお話をさせていただくなかで「結局のところコーチングってなに?」というご質問をやはり多くいただきます。
コーチングに魅せられて,10年以上の時間を費やしてきた僕としても,コーチングに興味を持っていただくことはうれしいことですし,その源流にあるアドラーや近代カウンセリングの父ロジャーズの考えに少しでも耳をお貸しいただけることは,次の世代を担う子どもたちへ大きな影響を与える「教育」という分野においても,とてつもなく大きな効果を生み出すだろうと考えています。
コーチングを起点としてアドラー心理学やカールロジャーズの来談者中心療法に興味を感じた方はとりあえず一冊関連書籍を手に取って欲しいと思います。僕としてもこれらの専門ではなく,コーチングという人材育成手法をたどっていてたまたまたどり着いたもののうちのひとつですから,同じ初心者としていっしょに勉強していけたらいいなと思っています。
さて,そんなわけで巷ではまだあまり知られていない人材育成の切り札コーチングですが,ミライデザインラボでは,これをもう少し低年齢層に落とし込めるように,どちらかというとカウンセリングやメンタリングの方向に寄せています。多感な子どもたちにとってはまず日頃の心身の安定,不安や感情の振れ幅がなるべくストレスにならない程度に抑えられていることが重要と考えて,これをいちばんに考えています。
ティーンネイジの多くは,「勉強することが仕事」と,ご両親や学校の先生方をはじめとした「社会」から要求されていることを理解しているでしょう。一方で,彼らの時間は絶対値として我々オトナと同じ時間が与えられてはいるのですが,その意義や内容は決して同じではありませんから,わけもなく多くの時間を勉強に割くことは難しいでしょう。
ある調査によれば,ティーンネイジが勉強する理由の第1位は「親が喜ぶから」という結果だったそうです。胸に手を当てて考えれば,勉強しているのをみれば「えらいね」「すごいね」と声をかけ,勉強しないのをみれば「宿題やったの?」「テレビはもうそろそろお終いじゃない?」と声をかけ,要するに「(ステレオタイプ的な)将来何かしら役に立ちそうなこと」をしていると”喜んでいる”という着想は間違っていないなぁと思ったりします。
要するに,彼らがおかれている環境,すなわち多かれ少なかれ勉強するということに対してストレスを感じる環境だったり,自身の欲求を満足させるような時間配分には至らないのが常である,加えて学校での人間関係は今日び複雑性を増し,ましてこのコロナ禍はさらにそれを加速させている,そういった現状に鑑みて,まずは気が付かないうちに彼らが不安定になっていないか,あるいは不満やモヤモヤを抱えていないかを確認する意味で,ラボでのコーチングは,心の振れ幅を小さく,安定して,安心して,自分の考えや行動を表面化しやすい環境を整えてあげることに第1の目標を置いています。
他方で,たとえばよろこんで勉強している子どもたち,自分の意志で勉強をしたいと言っている子どもたちもいます。これらの子どもたちには,もちろんその行動を励まし,勇気づけることがコーチングの役割でもありますが,もうひとつ大事なことは「果たしてそれは本当にあなたが目指すところへ行くための行動なのだろうか。」という疑問を投げかけることです。
コーチングに限らず,大きな成果をあげるためには,目的と目標はしっかりと区別して明確化する必要があります。なぜなら,それを怠ると容易に「手段が目的化」するからです。
勉強することが目的化してしまったら本末転倒です。
勉強が趣味で,学ぶことがただ楽しいだけなら,勉強は目的になりうるかもしれません。
しかし,元来,学校の勉強は学びのひとつです。飽くなき探求心を向けるべきは,勉強でなく学びであってほしいと思います。学校の勉強は言わばインプットの初歩であり,社会に出て最も必要となる「学び」は自らインプットし,既知の知識と統合,廃合,接続,創造,そしてこれまでになかった新しい課題をクリアするためのアウトプットを生み出す種となるものです。
したがって,学校の勉強は手段のうちのひとつと考え,ラボのコーチングが行うのは「目的」を深く掘り下げ,先述の一見楽しんで勉強に取り組んでいる子どもたちが本当に目的をもって学ぼうとしているのかを問いかけたいと考えています。もしも目的が変われば,手段の最適化は必須だからです。
まぁぶっちゃけてしまえば,あえて僕らがこの時点で問いかけなくても,いつか本人が壁にあたって自問自答するタイミングはあるでしょう。コーチングはこの自然発生の壁を待つことなく,積極的にコーチを鏡として自分自身と向き合う時間を創っていく行為でもあります。
コーチングを受けると目標達成プロセスが短縮されるのはこういった機序を持っているからでもあります。
では本題に戻りまして,ミライラボが考えるコーチングとは何かについて,話をすすめていきましょう。
別にエントリーした記事にも書きましたが,僕が考えるコーチングは,
コーチとの対話を通じて,自分としっかり向き合うことで,内側から活きるチカラを生み出すコミュニケーション
です。
これだけだと????ってなりますよね。
コーチングについて概要を語ると,心の在り方とか,自己理解とか,目的と目標を明確にするとか,目標達成のプロセスを掘り下げるとか,どうしても抽象論になってしまって,具体的になにをするのか?というところが見えづらくなってしまいます。このあたりがコーチングを実際に受けたことがないひとにとっては,コーチングへの理解がしづらく,不安が解消されない原因なのだろうなと思っています。
つまるところ,コーチングではおおざっぱに「オープニングセッション=コーチとの対話」と「プロセスの実践と励まし,伴走」と「クロージングセッション=効果測定とフィードバック」を1サイクルとして,これを繰り返すことで目標到達への速度と効果を高める,というのが具体手順なのですが,これだといわゆるPDCAサイクルを回している説明に過ぎず,コーチングが最大限効果をあげるメカニズムの説明にはなっていません。
というのも,一般にコーチングはコミュニケーションスキルのひとつと考えられていて,各コーチング団体や有名コーチがそのコーチング技術を伝承するとき,スキルを体系化し,言語化し,マニュアル化し,誰でも同じ効果が発生するよう落とし込まれているはずなのですが,実のところ,職人技的な扱いという側面は見過ごすことができないのです。
なので,どうしても抽象論になりがちな分野ではあります。すみません。
さて,そう言いながらもここであきらめてしまっては,ミライデザインラボが成立するためには,是が非でも最初の導入コーチングを受けてもらうか,単純に学習メソッドだけに興味を持ってもらうか,ということになってしまうので,なんとかWEBを見て興味を持ち,その足で見学や説明会に行くお問い合わせボタンをポチってもらうためにももう少し書きます。
GROWモデル
コーチングの具体的なプロセスを考えるとき,コーチングの最もシンプルで有名なメソッドとしてGROWモデルというものがあります。
Goal(ゴールの明確化),Reality(現状の把握),Options(方法,選択,プロセスの明確化),Will(意思決定) の4つの段階を1ステップずつ進めていく方法です。
GROWモデルに基づいてコーチングを進めていけば,大枠で道から外れることはなく,コーチングの王道と言えるでしょう。コーチングではこれをコーチとの対話によってクライエントは自身の中にもともとあるのだけれど,自分では気が付いていない部分に焦点をあてていきます。
Goal
まずはこの戦略で目指す目標たるゴールを明確にします。そのためには,先述のとおりもっと大枠の「目的」をはっきりさせる必要があり,コーチは必ずその目的を問うでしょう。そうしないと必ず途中で迷走するからです。目的は目標と異なり,ストラテジーを練る際に確認する初手であり,不動のものです。これはその戦略のアイデンティティそのものなので,決してブレてはいけません。ここがブレるようなら,自身が大切にしている価値観など自己理解が不足しているか,人生における最大の目的を見誤っていることが多いです。
一方で目標は目的を達成するためのマイルストーンですから,場合によっては変化することもあります。時間と場所,状態,環境によって最適な手段や目標物は変更されることがあってよいと考えています(まぁそんなコロコロ変わるとすればそもそも目的がブレてる可能性が高いのですが)。つまり,目的を達成するためのスモールステップたる目標物とか,いったん目指すべき状態とか,ある技能の獲得が目的到達に不可欠であるとか,そういうところがゴールになると思います。
Reality
次に現状把握(Reality)を行います。現状とは,文字通りの現在の状況だけにとどまらず,持てる能力,技術や能力あるいは経験の棚卸からはじまり,あらゆるリソースへのアクセスを求めます。自分一人でできないのなら,だれか頼れる者はいないのか?なにか参考になる資料はないか?あるいはかつての自身の経験に照らして同様の状況をどのようにクリアしてきたか,といったことです。
Options
3番目に手段や方略,多くの選択肢をブレスト的に引き出します。
ゴールにたどり着くための具体な手段を探ります。自分ができる範囲?あるいは少し背伸びをしたストレッチゾーンにある難易度の高い手段?とにかくコーチとアイディアを出して,行動のバリエーションを増やします。その中できっと「うまく説明できないけれど,ピンとくる!」アイディアが生まれます。
自身と信頼するコーチで考えたアイディアならハマるのはあたりまえです。
Will
そして最後に意思決定(Will),すなわち目標到達のための仕掛けや考え方を自分自身で提案し,それにコミットしていきます。この時,コーチはクライエントの伴走者として彼らが目標達成することに同様の責任を持ちます。いわば強い絆と,信頼関係を元に,二人三脚で進んでいくことを約束するのです。
コーチとの約束は,同時に自身との約束です。
このことは強いモチベーションになりますし,同時に誰かに強制されるものでもなく,自分自身でコントロールできるものでもあります。ひとは強制されるとモチベーションを保つことが難しく,やらされ感だけが残ります。やらされ感では,目標達成を最短距離で目指すことは到底かないませんし,なによりストレスですよね。
一方でコーチングで創られた目標はすべて自分の中からでたものです。だから続く。だから燃える。
ただし,選択し,決めることは,覚悟をすることでもあり,多くの勇気が必要です。簡単に勇気が出れば誰も苦労しません。アドラー心理学は勇気づけの心理学とも言われていますが,コーチとの対話はその源流たるアドラー心理学をそのままに勇気づけの対話でもあるのです。
理由なきところにモチベーションなし。モチベーションは,確固たる意志と目的,それを達成しなくてはならない理由がそのひとになければ,やはりうまくはいかないものなのです。
コーチとのコーチングセッションはこれらのことを浮き彫りにしていく過程であると考えてもらってもよいかもしれません。
Dialog
また,コーチングで用いるのは「対話」です。対話(ダイアログ)は,普通に会話するのとは異なります。コーチは,クライエントの能力を100%発揮させ,ゴール到達をサポートするための働きかけ,関わり方をします。コーチング団体によってもその技法は若干異なることがありますが,僕はこの対話を成立させるための技能は大きく5つと考えています。
すなわち,「観る」,「聴く」,「認める」,「問う」,「話す」の5つです。
これらの5つの技法とひとつのコーチング基盤(コーチングマインドを指しますが具体な話はまたの機会に)をもって,クライエントに意図的に関わる対話,これがコーチングということになります。
さて,いかがでしょうか。少しイメージ湧いてきてくれましたか。
コーチング型の指導は,会社の部下や親子でも応用できます。なので高度成長期に通用していた上意下達方式「ストロング型」人材育成に代わって,このVUCAと呼ばれる新時代の荒波を乗り切るための切り札として,コーチング指導が一般化してくれることを望みます。いえ,指導とはもはや言えないであろうこの人材育成手法を小さいころから受けた者たちが一刻もはやく社会に台頭して欲しいと思っています。
みなさんが少しでも興味をもってくれればうれしいです。
次回は「5つのスキル」の話をもう少し踏み込んで。